フィリピン中間選挙でドゥテルテ派圧勝。高い人気の背景にアンチ・ポリコレの広がり

5月13日の中間選挙を前にマニラで開かれた与党の会議でのドゥテルテ大統領。

フィリピンの中間選挙でドゥテルテ大統領派が地滑り的な勝利を収めた。大統領任期6年の折り返し点で、上下両院議員や自治体の長、議員らが一斉に改選される選挙は、大統領任期前半のパフォーマンスに対する審判でもある。地元メディアには「史上最強の大統領」「野党を一掃」といった見出しが躍る。異形の国家元首が高い支持率を維持する背景には、世界に広がる「アンチ・ポリコレ(政治的妥当性)ムード」、「きれいごと疲れ」があるようにみえる。

下院選は、勝馬に乗るために政党を渡り歩く議員が多いので政権与党の勝利が定番だ。注目されるのは定数24のうち半数の12議席が改選される上院。全国一区で投票されるため、知名度の高い候補の争いとなり、上位当選者は次期大統領候補とみなされる。5月13日に実施された今回の上院選では、中間派の1議席を除いて与党が11議席を占めた。

候補者個々の力量や人気より、大統領の支持が票を押し上げた。俳優や政治家一家の家系を引く候補らに交じって、ドゥテルテ氏が南部ミンダナオ島ダバオの市長時代からの執事役(有り体に言えば「かばん持ち」)だったクリストファー・ボン・ゴー氏が3位当選。ダバオの警察署長時代にドゥテルテ氏に気に入られ、警察庁長官に抜擢されたバト・デラロサ氏も5位に入った。やはりドゥテルテ氏が強く推したアイミー・マルコス氏は7位で当選した。21年間にわたり独裁体制を敷いた故フェルディナンド・マルコス元首相の長女である。

野党候補は全滅した。ネットメディア・ラップラーによると、野党が一議席も取れなかったのは米国植民地時代の1938年以来、81年ぶりという。アキノ前大統領の甥で現職のバム・アキノ氏は次点にもならず、先の大統領選で本命とされながらドゥテルテ氏に敗れた元大統領の孫、マヌエル・ロハス元自治相は16位と惨敗した。野党は過去3年、大統領の資質や政策を批判し続け、大統領も野党を徹底的に「口撃」してきた。国民が大統領に軍配を上げたのは明らかだ。

大統領の人気は世論調査でもはっきりと裏付けられている。民間調査機関ソーシャル・ウエザー・ステーション(SWS)が3月に実施したドゥテルテ政権への満足度調査(5月3日発表)によると、政権運営に「満足」と答えた人は81%で、12月の前回調査と比べて5ポイント増加。2017年12月の79%を超えて政権発足後最高となった。大統領個人への満足度調査でも「満足」と答えたのは79%で過去最高水準だ。 

選挙の結果を宣言する式典に集まった議員たち

政策では説明できない支持の強さ

私の知人の記者や学者、外交官らの多くは「経済が悪くなれば、そのうち支持率は落ちる」「フィリピン人は中国を信用していない。大統領が中国への傾斜を強めれば、支持は離れる」と言っていた。私もそうだろうと考えていたが、支持は落ちないどころか、逆に上昇している。なぜか。

好調な経済が支持の基盤となっているのは間違いない。この3年、6%を超える成長率を維持している。昨年、国民を悩ませたインフレも沈静化しつつある。しかし成長率はアキノ前政権時からほぼ同じ水準だ。現政権の経済政策の成果というより、人口ボーナスや海外出稼ぎ労働者からの送金に支えられた部分が大きい。

「ビルト・ビルト・ビルト」の掛け声で、大規模なインフラ投資を加速させていても、まだ目にみえる成果が得られているわけではない。逆に首都圏で水不足があらわとなり、3月から給水制限が実施されている地域もある。電力不足も深刻だ。渋滞も改善の兆しはみえない。

雇い止めや違法な人材派遣を禁止する法を制定したり、農地改革を進めたりする姿勢を、貧困層にアピールするが、貧富の格差を大幅に縮める効果が表れたとまでは言えない。一般庶民の感覚としては、生活は楽ではないが、悪くもなっていないというところだろう。

就任以来最も力を入れている麻薬撲滅戦争にからみ、マニラ首都圏などでも体感治安が良くなったという声を聞く。だがその代償として政府発表でも5000人以上、NGOなどの推計では1万人以上が司法手続きを経ずに殺害され、欧米からは人権無視の暴力的政策と批判がやまない。当初は半年で撲滅すると宣言していた大統領自身、麻薬汚染がやまないことを認めている。さらに大統領の長男ら親族が麻薬取引の黒幕だとする告発が世間を騒がせもした。 

選挙公約の「汚職追放」も雲行きは怪しい。税関などの下級役人は追放しても、自分が指名した軍人らが関与を疑われたり、責任を問われたりしてもポストを変えるだけだ。虚実不明ながら大統領や家族のものだとする10億円単位の預金通帳の写しを野党議員が公開したが、自らの通帳等の公開は避けている。納税申告書の公開を拒む米国のトランプ大統領の姿勢と同じだ。

ドゥテルテ氏は、南シナ海の領有権問題をめぐり前政権が激しく対立してきた中国に接近し、宥和の姿勢を鮮明にしてきた。世論調査を見れば、フィリピン人が中国に対して好意を抱いていないのは明らかで、大統領の中国寄りの姿勢にも批判的な声が目立つ。それでも支持率に大きな影響を与えた形跡はない。

現政権の政策と大統領の高い支持率、絶大な人気の間に明確な関連を見つけるのは容易ではない。

ドゥテルテ愛と、きれいごと疲れ

1986年2月、マニラで多くの市民が街頭に出て戦車と対峙し、マルコス独裁政権を打倒した。フィリピンはこの時代の世界の民主化の先駆けとなった。アイコンは、政変を受けて大統領となったコラソン・アキノ氏である。民主化の波はその後、台湾、韓国から東欧に及び、「ピープルパワー」政変とも呼ばれる革命はフィリピン国民の誇りとなった。近隣国がその間に経済発展で先行していたとしても、われわれは民主主義を勝ち取ったのだ、と。

その30年後の2016年、フィリピンは「アンチ・ポリコレ」の先駆けとなった。アイコンは、ミンダナオ島の市長から初めて大統領に上り詰めたドゥテルテ氏だ。

ポリコレとは「ポリティカル・コレクトネス」のことである。「性・民族・宗教などによる差別や偏見、またそれに基づく社会制度・言語表現は、是正すべきとする考え方。政治的妥当性」(大辞林)。「人種・宗教・性別などの違いによる偏見・差別を含まない、中立的な表現や用語を用いること」(デジタル大辞泉)。中立の言葉を使いましょう。チェアマンじゃなくてチェアパーソンに、黒人はアフリカ系アメリカ人、といった言い換えにとどまらず、政治的な正しさ、例えば差別の排除、女性蔑視の禁止といった概念に及ぶこともある。

ドゥテルテ氏が大統領になったころ、ポリコレを無視した暴言が日本でも注目され、私に限らずフィリピンウォッチャーにはテレビの情報番組から出演依頼が相次いだ。ところが米国でトランプ氏が大統領に当選したのを境にぱたっとお呼びがかからなくなった。超大国の指導者がとんでもない発言を繰り返すので、ドゥテルテ氏は陰に隠れ、日本のテレビも食指が動かなくなったのだろう。移民排除や「IQが低い」と政敵をなじるトランプ氏がアンチ・ポリコレのシンボルになった。

アメリカ、フィリピンともに、国民も次第に無茶な発言に慣れて免疫ができたようにみえる。これまでなら「それを言っちゃ、お終いよ」ということを公衆の面前で平気で話す。指導者のそうした言動に対してインテリ層が眉をしかめても、「おっさんがまた言ってら」という感じで、相当数の大衆には逆に受けていることは否定できない。

トランプ氏の陰に隠れていても、ドゥテルテ氏のアンチ・ポリコレはずっと続いている。

今回の選挙期間中に遊説で訪れた中部ボホール島で、支援する女性町長に「あんたはホント美人だ。俺が旦那だとして、あんたが逃げようとしたらパンティをつかんでガーターが切れるまで絶対に離さない」と言い放った。

トランプ氏は、16年の大統領選中に「こちらがスターだとやらせてくれる。Pussyをわしづかみにする。何でもできる」と女性を揶揄する発言をしていたことが暴露され、「ロッカールームトークだ」と言い訳した。スポーツ選手が着替えの際に交わす品のないジョークだという意味だ。

ドゥテルテ氏の場合、ロッカールームどころではなく、選挙集会での発言である。「私は女性が好きだ。愛している」と女性蔑視を否定しているが、今の時代、そうは受け取れない言動を繰り返している。それでも多くの国民は「ちょっとだらしないけど本音で話す愛すべきおやじ」といった感じで大統領を愛しているのだ。

アンチ・ポリコレはこの2国に限らない。日本人を蔑称である「ペキニニーニョ(ちっこい)」と呼んだブラジルのボルソナロ大統領、「チェコのトランプ」と呼ばれるバビシュ首相。いずれもドゥテルテ氏の当選後に出てきた過激発言をウリにする国家指導者である。

アメリカのトランプ大統領

敵はエスタブリッシュメント

世界各地で「きれいごと疲れ」が広がるなか、台頭するポピュリスト系政治家共通のターゲットは、各国に居座る旧来のエリートたちだ。グローバル化が進み、新自由主義経済体制の下で貧富の格差が広がるなか、民主主義的価値観(きれいごと)を唱えながら既得権にどっぷり浸かったエスタブリッシュメント層に照準を定めている。

夫に続いて大統領の座をめざしたヒラリー・クリントン氏をこき下ろしたトランプ氏に対してドゥテルテ氏の攻撃対象は30年以上にわたってフィリピン政界の主流にいたアキノ、ロハスといった政治一家だ。コラソン・アキノ氏は民主主義を復権させた功績で国民に慕われ、長男のノイノイ・アキノ氏は母親の死を受けた選挙で大勝し大統領の座に就いた。

しかし政変後30年以上がたっても、既得権層が支配する政治・経済構造が変わらず、多くの国民が民主化の果実を実感できない状況をドゥテルテ氏は鋭く突いた。アキノ家やそれに連なる政治勢力を徹底的に批判し、若年層を中心に共感を広げてきた。

インドの総選挙で、モディ首相が建国以来支配層に君臨するネルー・ガンジー王朝を過去のエスタブリッシュメントと切って捨てたのと同じ構図である。

ポピュリスト政治家らは、これまで政治的正統性を象徴するとされてきたファミリーをアンチ・ポリコレの言葉で非難し、大衆の心をつかんだ。

ここで不思議なのは、エリート層、既存のエスタブリッシュメント攻撃に喝采する国民や有権者が、新たな政治王朝や既得権益を築こうとしているポピュリスト政治家らには寛容なことだ。

トランプ氏は娘や娘婿などの取り巻きを政権中枢にすえ、ドゥテルテ氏の地元のダバオでは今回、後継の市長に長女、副市長に次男、下院議員に長男が選出され、地盤はさらに盤石になった。

かつて大統領を務め、不正蓄財で逮捕、実刑判決を受けた後にマニラ市長になっていたエストラダ氏が今回の市長選で敗れ、息子や娘らも上院選や地方選で軒並み落選したのとは対照的だ。政治王朝交代の観がある。

フィリピンの次期大統領に最も近い位置にいるのはサラ・ドゥテルテ・ダバオ市長である。立候補については「2021年の情勢による」としているが、やる気は十分だ。自分が党首となる新党を立ち上げ、今回の選挙でも上下院、地方の首長、議員ら多数の候補を推薦し、当選させた。

エストラダ、アロヨと2人の大統領経験者が、政権交代後に逮捕されている。麻薬撲滅戦争における超法規的殺人などで突っ込みどころ満載のドゥテルテ氏としては、自分を投獄しない、信頼できる人物に後を託したいはずだ。現段階で長女のサラ氏に対抗できる条件を持つ候補は、群を抜く知名度を誇るボクシングのレジェンド、マニー・パッキャオ上院議員ぐらいしか見当たらない。

メディアリテラシーの差

私の見るところ、ドゥテルテ氏はあれで案外小心者である。だから野党やメディアの批判にむきになって反撃するし、議会や地元を家族や側近で固めようとする。その延長で考えるとサラ氏は必ず立候補するし、ドゥテルテ氏の人気が大幅に下降しない限り、当選の可能性は高い。

80%前後というドゥテルテ氏の支持率に対してトランプ氏も4月、就任後最高の46%を記録した。両氏の差は、メディアの在り方、両国民のリテラシーの差ではないかと考える。自らに批判的なメディアを罵倒し、時に圧力をかける姿勢は共通するが、大統領の不規則な発言や決定に対して、ファクトチェックなどで主流メディアがしぶとく対抗する米国に対して、フィリピンで政権を批判するメディアは先述のラップラーなどに限られる。大統領の資産や長男の麻薬疑惑に対して、調査報道で真相解明に挑むメディアは見あたらないし、国民の関心も高まらない。 

さてドゥテルテ大統領は任期後半にどう臨むだろうか。麻薬撲滅戦争、インフラ整備に加えて、公約に掲げる連邦制へ向けた憲法改正に取り組むかどうか。大統領が最も腐心するのは、やはり信頼できる後継者づくりではないか。不安要素は、74歳という年齢で様々な持病を抱える本人の健康状態だ。高い支持率という政治的なアセットを有意義に使って貧富の格差や首都圏の渋滞、アジア最悪と評判のマニラ国際空港の混雑解消などに剛腕を奮えば、歴史に名を残すことができるのだが。さて。

Source: ハフポスト