今のビジネスパーソンに欠かせない「PRの5ケ条」を教えて。PR業界の第一人者・本田哲也さんに聞きました。

本田哲也さん(左)とハフポスト竹下隆一郎(右)

SNSで誰もが「宣伝」できる時代。企業と個人も簡単につながれるようになりました。そんな今だからこそ必要な「PR」とはどのようなものなのでしょうか?

4月22日、アクセンチュア・イノベーションハブ・東京で、PR会社ブルーカレント・ジャパン代表取締役社長を退任して独立した本田哲也さんに、ハフポスト日本版編集長・竹下隆一郎が公開インタビューしました。

公開インタビューから見えてきた「これからのPR」、SNS時代にうまくいく「PRの5箇条」とは?

新しいPRの仕事の仕方を模索していきたい

竹下:商品を押し付けがましく宣伝するのではなく、世の中の「空気感」に合わせて広報をする「戦略PR」。この考え方の“生みの親”ともいうべき本田さんが、ブルーカレントの代表取締役を退任するということで、PR業界には大きな衝撃が走りましたね。

本田:そうですね。今日は、どうして社長を辞めたのか、吊るし上げられる会だと思って覚悟してやって来ました(笑)。

僕は、PRの仕事を始めて、ちょうど20年になります。ブルーカレントを立ち上げて13年、ひとつの節目だと思いました。「PR会社」という枠組みの中で、PRの仕事をする良さはもちろんあるけれど、その一方で限界もある。例えばそのひとつが「フレキシビリティ」です。PRには実に多様なニーズとやり方があります。それをPR会社の提供するチームフレームや支援メニューだけでこなすには無理が出てきています。仕事に飽きたとか、独立して大儲け!というモチベーションではなく、新しいPRの仕事の仕方を模索していきたいと思ったんです。それをするなら、自分で一肌脱がなきゃいけないと思って、ステイタスを変えました。

竹下:なるほど…。そうはいってもブルーカレントジャパンもかなり先進的な「PR」のあり方を打ち出してきた会社ですよね。

本田:ブルーカレントでは「戦略PR」という旗印を立てて、プレスリリースを書いて、メディアに直接売り込んで、記事や番組などに出したりするというのではなくて、もっと戦略性があってダイナミックなものとしての「PR」を目指してきました。

会社を立ち上げたばかりの12、3年前は1人、2人というところから始まりましたが、13年経ち、数十人規模くらいにはなりました。

世の中の動きを作り出すPRのアプローチは「有機農法」

竹下:一番思い出に残っている仕事は何でしょう?

本田:いやー、いっぱいありますよ。13年間で300以上のクライアントさんとお仕事をさせてもらいましたが、例えばサントリーさんと「ハイボール」ブームのムーブメントの一角を担ったことは印象に残っています。プロダクトそのもの、サービスそのものをダイレクトにPRするよりも、空気というか、世の中の動きみたいなものを作っていって、その結果、商品が売れていく、企業が注目されるというようなことができてよかったと思っています。

P&Gさんが洗剤に「除菌」という概念を取り入れるお手伝いもしました。それまで洗剤を選ぶときは、「真っ白になるものが欲しい」という消費者の空気がありましたが、「除菌できるものがいい」という空気に変えていくという流れにも関わりました。

これはマーケティング全体の話ですが、メーカーが「これからの時代は除菌だ!」というだけでは、ダメなんです。「なぜ除菌が洗剤に必要なんですか?」という消費者の疑問に答えるために「洗濯機の中には、これだけばい菌がいます」と実験などをして専門家と一緒にファクトや健康情報をしっかり出してく必要がありました。洗剤を選ぶ人たちに「白く洗い上がるのも大事だけど、ばい菌が結構いますよ」と伝えるところまでをPRがやるということですね。

竹下:人の意識は簡単には変わらないと思いますが、空気作りはどのようにしているんですか?

本田:時間はかかりますよね。「広告的なアプローチ」と「PRのアプローチ」の違いを農業に例えると「焼畑」と「有機農法」だと思うんです。畑を焼いて一気に展開して結果が出るのが広告的アプローチだとしたら、土を耕し、化学肥料を使わず、じわじわじわっと育てていくPR的アプローチは、すぐに「ことが起こる」というわけにはいきません。

短期的には広告やプロモーションが強い。では広告やプロモーションだけで十分な成果が出せるかというと、それもそうではない。さっき言ったように、広告は空気を作っていくのは苦手なので、「短距離が得意な人」と「スタミナ持っている人」の協業のように、広告とPRの両方で結果を出していくという時代になっている。

本田哲也さん

『オーシャンズ11』のようなフレキシブルチーミングが求められる時代

竹下:なるほど。そうすると、広告の専門家とPRの専門家がチームを組んで仕掛けていくのがいいのでしょうか。

本田:そうなんです。新しく立ち上げた事務所にもつながっていく話なのですが、「広告は何をするか」「PRは何をするか」という役割分担の話ではなく、それぞれがどう連携していくべきか、をうまく設計することが、成功の鍵を握ってくると思っているんです。

これまで(ブルーカレントでも)大きなチームを作って、PRやメディアリレーションをたくさん行ってきました。これには時間と労力、時間がかかります。もちろんこうしたアプローチが必要なこともありますが、相対的にそうではないフィールドも増えています。スタートアップ領域もそのひとつですね。スタートアップにはポテンシャルはあっても大きな広告PR予算はありません。しかし、しっかりしたPR戦略さえあれば、広報担当者ひとりでもやれることはある。

例えば今は、企業自身が発信できますよね。オウンドメディアも増えてきているし、SNSもある。そしてメディアや企業よりも、影響力のある個人=インフルエンサーが出現しています。そう考えると、今の時代のPRは、予算をつぎ込んで、「量」を求めて大人数でガーッと動くだけではない、フレキシビリティが求められる。今回立ち上げた本田事務所では、PRの仕事への従事の仕方をフレキシブルチーミングにできないかと思っています。1つ1つのPRの目的とかプロジェクトに対して、今までよりも柔軟なやり方挑戦したいんですよね。

竹下:それはおもしろいですね。本田事務所は今、社員の方って何人いるんですか。

本田:私、一人です。当面、正社員を増やす気はありません。独立を発表してから、とてもうれしいことにいろいろな依頼や「一緒にやりましょう」というお話はいただいていますが、本田事務所の社員になりましょうというアプローチはまったくしていません。

イメージとしては映画の『オーシャンズ11』みたいなものを考えているんです。あの映画の中では、普段は別々に行動しているにもかかわらず、作戦を考える人、爆弾をしかける人、金庫を開ける人など得意なことが異なる犯罪スペシャリストが、ホテルベラージオの金庫からお金を盗むために結集する。

それと同じようにPRも、こういう案件だったらAさんとBさんとCさんを組み合わせてやってみたらいいのではないか、違うチャレンジは代理店の力が必要だからA社とフリーランスでやっているBさんの座組がいいみたいな、ことをやっていきたい。スピードもとても重要になってきていて、ちょっと社内でチーム編成するから時間くださいと言っている場合じゃない。

時間軸においてもフレキシブルにチームを変えたり、発想を変えていかなくちゃいけないと思っています。そのためには、「人のデータベース」が大事になる。どういう人がいて、どういうPRの仕事ができるかを知る必要があります。その際、「メディアプロモーターです」、「プランナー」ですというのでは解像度が荒すぎる。プロモートが得意なら、その中でも「化粧品なら任せてください」「テック系なら右に出るものはいない」というように細かいデータを集めていかないと、フレキシブルなチームは成功しません。個々のPR会社の中には、そういった人材データベースがあるはずですが、業界を横断したデータ、フリーランスを含め体系的にまとめたデータはないんです。だから、そのデータベース作りには手をかけたいと思っています。「この人とこの人が組んだら、最高の『オーシャンズ11』ができる」という精度を上げていきたいですね。

優秀なPRパーソンは「いろいろスポットの当て方」ができる

竹下:おもしろそうですね。本田さんのつくる『オーシャンズ11』に入るにはどうすればいいんですか?今後PR業界で生き残るにはどうしたらいのでしょう。

本田:最近、「個」の時代と言われるようになっていますが、これは「フリーランスになれ」ということではなくて、PR会社や企業の広報などのように、組織に属していたとしても、個人の価値とか「これはいい・悪い」といった判断基準を今まで以上に意識して持った方いいでしょうね。

竹下:PRパーソンが、そういう個々の価値基準を養うにはどうすればいいんでしょう。

本田:「やっぱり昔ながらの手法が大事だよね」という意味ではなく「基本のき」はメディアリレーションだと思います。メディアデータを読んでいるだけではダメで、例えば竹下さんみたいなメディアの人に電話をしてみなくちゃ。そして、メディアの人に怒られるのが大事なんです。

広報をやっていると、「これを売り込もう」とメディアの人を説得しようとしがちになります。私も昔、メディアの人に商品の良さを一生懸命話して「何を言ってるんですか?全然おもしろくないです」とバサッと切られたことがありました。でも竹下さんみたいに優しい人だと「それはダメだけど、こっち側からスポットライトを当てたら、ハフポストとしてもおもしろい」と教えてくれる。こうして違うスポットライトの当て方を繰り返して学ぶと、多義的に物事を見られるようになります。「この商品をPRするのに、こういう切り口も、こういう切り口もあるな」「あのメディアさん、この間は怒られたけれど、こうやって売り込めば取り上げてくれるかもしれない」という訓練ができるわけです。この「いろいろスポットの当て方」ができるのが優秀なPRパーソンだと思います。

私は今回独立して、新しいステージでのチャレンジがはじまります。フレキシブルなチームとして、みなさんともいろいろと一緒にやっていくこともあると思います。ぜひ「オーシャンズ11」でよろしくお願いします。 

PRが上手くいくための5か条を解説する本田哲也さん

今回のイベントでは、本田さんが来場者に向けて「PRが上手くいくための5か条」をシェアしました。広報やPRに従事している人だけではなく、企画書を書いたり、プレゼントしたりと言った様々なビジネスシーンで役に立つはずです。本田さんの解説とともにご紹介します。ぜひ参考にしてください。

1.「大衆」ではなく「個」に伝えよう。

少し前までは、いかに「大衆に伝えるか」「マスを意識するか」が必要でした。現在もそういう側面が一部あるけれど、やはり今は「個」に伝えることの重要性が増しています。これは、大衆を完全に忘れて個だけを意識するというよりは、より広い人に伝えるには個をみなくてはダメという意味が含まれています。その人自身の興味に蓄積によって、大勢に伝わることもある、

2.「手段」を「目的」にするな。

戦略PRのために毎日している仕事がプレスリリースの作成・配信だと、いつの間にかプレスリリースを出すことが目的になってしまっていることがある。だから「今月はあまりプレスリリースを出してないじゃないか」といったことが議論されたりする。でもプレスリリースは、あくまで戦略的PRの手段であって、目的ではありません。戦術とか手段の話が目的化してしまうのは「PRあるある」なので、注意しましょう。

3.商品から見える「世界」を語れ。

これだけ世の中に流れる情報が増えると、よっぽど奇抜なことをやるか工夫を凝らさないと情報が伝わりません。メディアは「商品」が見たいわけはなくて、商品から垣間見える「世相みたいなもの」を知りたいんだということを改めて肝に命じてください。「この商品、いいと思いませんか?」ということを基本情報として語るのはいいけれど、それ自体にメディアは興味がないと思っていい。だから先回りして「私たちはこういう商品を出している。こういう商品が人気な背景にはこんな世の中の動きがあるからだ」と説明をすることを心がけて。

4.「炎上」ではなく「議論」を起こそう。

「いいタイミング」で「いい投げかけ」をすれば、議論が起こる。最近ではヘアケアブランドのパンテーン(P&G)が学生の髪型校則をテーマにした「#この髪どうしてダメですか」キャンペーンはいい例だと思います。炎上を恐れて「やらない」というのはもったいない。炎上ではなく、議論を起こすタイミングを見極めることが今後とても必要になってくるでしょう。

5.楽しく正しく「企もう」

PRはとてもおもしろい仕事で、私自身20年やってきても飽きることがありません。だからぜひ楽しんでください。もしPRの仕事がつまらなくなってきたら、黄色信号。何か間違っているかもしれない、ただし当たり前のことですが、「企業のPRをしていて、本当にこれでいいのだろうか」と考える倫理観は忘れてはなりません。PRが悪く使われてしまうこともあります。心の中で「イヒヒ」と企みながらも、楽しくない、正しくない方向には、行かないようにしましょう。

Source: ハフポスト