村上春樹さんが、亡き父の従軍体験を綴った「猫を棄てる」。中国兵“処刑“の描写に中国での反応は?

作家の村上春樹さんが「文藝春秋」6月号で亡き父親の従軍体験をつづっている。この中には村上さんの父親が、自分の所属していた部隊が捕虜の中国兵を軍刀で「処刑」したことを打ち明ける描写がある。

村上春樹さんの特別寄稿

このエッセイについて中国のメディアが報じると、一気に現地のネットユーザーの注目を集めた。日本を罵るコメントも多くあった一方で、村上さんと父親のやりとりから「日本の国民も犠牲者ではないか」といった感想も生まれている。

■村上春樹さんと父の従軍経験

村上さんの寄稿が掲載されているのは「文藝春秋」6月号。「猫を棄てるー父親について語るときに僕の語ること」と題されたエッセイだ。

作家として活動していくうちにだんだんと疎遠になってしまった父親のことを、海辺に雌猫を一緒に棄てに行ったエピソードなどを通じて回顧している。

産経新聞によると、村上さんが家族について詳しく語るのは初めて。

この中で、父親の従軍体験について描写がある。村上さんの父親は、仏教の学習を専門とする学校に在籍していたが、1938年、20歳の時に事務手続き上の手違いで徴兵される。そして、軍馬の世話などにあたる輜重(しちょう)兵第十六連隊に配属され、中国の地を踏む。

父親は、当時小学校低学年だった村上さんに一度だけ「処刑」の記憶を明かしている。本人が直接手を下したかどうかは明らかになっていない。

村上さんは父親がこの話をしたことについて『このことだけは、たとえ双方の心に傷となって残ったとしても、何らかの形で、血を分けた息子である僕に言い残し、伝えておかなくてはならないと感じていたのではないか』とつづり、エッセイの最後には、それぞれの歴史を受け継ぐことの大事さに言及している。

■中国メディアが紹介

村上さんがこのエッセイを発表すると、紅星新聞など複数の現地メディアが「村上春樹が、父親がかつて中国を侵略した日本軍にいたことを明かした」と題し、エッセイの一部を中国語に翻訳して伝えた。

紅星新聞は「村上春樹は政治的なメッセージとは無縁だったが、ここ数年で変化が見られる」と評論している。

ただこの記事では村上さんの父親について「公开了自己父亲在战争期间杀害中国战俘的残忍暴行(父親が戦争期間中に中国人捕虜を殺害するという残忍な暴行に及んだことを明かした)」と、父親自身が捕虜を手にかけたようにも読めてしまい、正確ではない部分もある。

■冷静さ求める声も

村上さんは、「ノルウェイの森」や「1Q84」などの作品が中国でも人気を博していて、知名度は高い。そのためか、今回の記事は中国のネットで拡散され、関連する書き込みはすでに2億回以上閲覧されている。

中国は「南京事件」について「30万人が犠牲になった」と主張していて、「どれが正しい数かを認定することは困難」とする日本の見解と対立するなど、歴史問題で日本に向ける視線は厳しい。

今回のエッセイについても、中国人が犠牲になったことが描かれていることから、日本を非難するコメントが多い。エッセイが中国側の主張を補強するものと感じたのか「これこそが真実だ」などといった書き込みもある。

一方で、当時の光景が父親にとって『心に長いあいだ重くのしかかってきたもの』と描写されていることや、晩年、敵味方を問わず戦没者のために毎朝欠かさずにお経を唱えていたことなども紹介されている。

そのためか、「戦争を起こしたのは国家だ、日本の国民も被害者ではないか」などと冷静さを求める声も上がった。

これに対しては「父親の記憶が幼い頃の彼に影響をもたらした。彼だって間違いなく被害者だ」とか「今の若者は戦後何十年もたってから生まれているのに、あれこれ言うのは良いことではない」などと同意を示す内容の書き込みもあった。

「歴史」が関係すると、中国のネットでは依然として日本を糾弾する声が多く上がる。一方で、村上さんが描いた日本軍兵士としての父親の姿から、違った視点を持つネットユーザーもいたようだ。

Source: ハフポスト