DELLが大阪でリカレント教育を実施してみた。

世界的なPCメーカー、デル株式会社 広域営業統括本部プレゼンツの同社上席執行役員の清水博さんによるブログが連載中です。第13弾は、デルが近畿大学とリカレント教育のCIO養成講座を実施してみて、わかったことをお話します。


リカレント教育とは?

リカレント教育という言葉を耳にしたこともあるかと思います。しかしながら、私はリカレント教育の意味を理解できていませんでした。近畿大学に打ち合わせで訪問した時に、産学連携で実施するリカレント教育のポスターが貼ってあったことで言葉の意味を調べるきっかけになりました。

グローバルな出版社であるWileyによりますと、

リカレント教育とは、教育全体の戦略である。本質的な特徴として、個人の人生全てに渡る教育であり、仕事、休暇、退職など、時に交互に行う教育である。

とあります。印象としては、仕事と教育が「交互」に行われている感じがします。「recurrent」そのものの意味が、「再発する」、「周期的に起こる」ですので、仕事をしている期間と教育を受ける期間が交互に起きると理解できます。

一方、日本語のWikipediaには、

リカレント教育とは、主に学校教育を終えた後の社会人が大学等の教育機関を利用した教育のことを指す。生涯教育を受けて発展した概念であり、職業能力向上となるより高度な知識や技術、生活上の教養や豊かさのために必要な教育を生涯に渡って繰り返し学習することを意味する。これには、仕事に就きながら必要な知識や技能を習得する教育訓練を行うOJT、仕事を一時的に離れて行う教育訓練(OFFJT)も包含されている。

とあります。

Wileyは「断続的」、Wikipediaでは「継続的」な印象に感じられ、微妙にニュアンスが異なります。これは私の印象なので、見る人により違う印象かもしれませんが、ここではどのような形式であれ、勉強する重要性は間違いないとの理解をすることにします。

お客様とお話をしていると、「仕事が忙しく、勉強したいのですがなかなかできません」と聞きます。最近の忙しい環境でさらに悪化しているようです。リカレント教育的には、「教育期間が断たれている状態」である方が多いと感じました。そのため、リカレント教育の考えにのっとり、教育を再開するような講座を実施してみたいと考えるようになりました。

学部の先生から学ぶこと

今回、講座を開設するにあたり、どのような講師陣を招聘するかまず考えました。ビジネスマンが学ぶ機会の多い、ビジネススクール的なワークショップを中心にしたケーススタディーなども多くの気づきが得られて、他流試合感もあり、非常に有用だと思います。しかし、教育からしばらく離れている方にとっては、ワークショップでの活発な発言などに苦慮するケースもあります。久しぶりに教育の場に戻って来るわけですから、まず自身の意見を交換するよりは、先生がお話される最新の講義をしっかり聞いて、それを自分で解釈する基本の教育のスタイルが望ましいと感じました。そのため大学の学部の先生から、最新の講義を聞く機会を持てないか?と考えました。

ビジネススクールの先生は、トークも洗練され、社会経験が豊かなので話題も豊富、非常に巧みなファシリテーションでコースを実施されて、とても憧れます。一方、学部の先生は、毎日、大学生相手に講義をしたり議論を仕掛けたりするので、歯切れが良く、ある時は命令口調になることが逆に「先生」を意識させ、とりあえずちゃんと話を聞こうという意識を持つことができたという点で、とても新鮮でした。

デザイン思考をテーマに選んだ理由

今回の講座は、CIOの養成を目指したものです。CIO(Chief Information Officer)とは、最高情報責任者ですので、会社のITやデータなどを全て統括する重責です。私たちが担当する従業員100名から1000名未満の中堅企業のお客様には、CIOという役職はあまり存在しません。しかし、情報を統括する方を明確にしていくことはとても重要です。

その背景で、今回の参加者は、マネージャークラスの方が多く、年齢は40代から50代の方が多かったです。ですから、大学を出て20年以上は、多少の会社の研修等はあったものの、勉強の機会が少ない方が多かったです。

したがって、直近10年以内に流行っている学問、例えば今回開催した講座のテーマである「デザイン思考」などについては馴染みのない世代と言えます。参加者の方々は、デザイン思考の本をいろいろ読んではみたものの、なかなか掴みどころがなく、理解できていないということが多かったようです。 そのため、今回は参加される教授の方にデザイン思考という共通のバックボーンを持って、それぞれご担当する講義を行っていただくことにしました。

講師の廣田先生

このデザイン思考のテーマを採用したことは、参加者からのポジティブな評価のひとつとなりました。参加された方は、IT関係者、総務部や経理部などの管理部門の方が多く、ビジネスデザインやサービスデザインの仕事には直接的には関わっていないのですが、「知的好奇心をくすぐられた」「自分の担当職務からでも、会社に対する発言などをする必要性を感じた」とか「お客様に提供できる価値を再度理解してビジネスを変革させたい」などという意見が出て、先生含めて私たち主催者はとても嬉しかったです。

「先生、その資料、後で送ってください」とは言えない

6回コースで実施しましたが、第1回目の講座の雰囲気は他と少し異なっていました。参加者の方々も余裕を感じていたようで、企業向けのセミナーや社会人向けのセミナーの時と同じ気持ちだったと思います。それで問題はないのですが、あまり積極的にノートを取るわけでもなく、何か良い情報があれば持ち帰ろうというようなリラックスした感じでスタートしました。

そして、初回のアンケートには、「講義で使われた資料をメールで送ってください」というコメントがとても多かったです。企業向けのIT系のセミナーであれば一般的なお話ですが、大学の学部の授業で、教授に対して、「とてもいい話だったので、資料を送っておいてください」と言うことはないと思います。なぜなら、そのような受身的な発言をすると、資料どころか、単位をもらえない可能性もあるので、参加者が大学生のときには、そのようなことはしなかったと思います。学ぶ姿勢とは、どのようなものなのだろうと少し考えさせられました。

先生方が使う資料は、全てが配布できるわけではありません。研究途上のものもありますし、資料が一人歩きしてしまうと誤解を招きそうなものもあります。しかし、そのような資料が、実は、授業の参加者にとってはとても面白いものなのです。

2回目の授業からは、このことが参加者に理解され、参加者の方々はスクリーンやホワイトボードを必死にメモするようになりました。グッタリ疲れたようでしたが、顔つきが変わってきて、授業に身が入ってきました。参加者には、幹部社員の方も多いです。彼らは会社では、誰かに議事録を取ってもらえる立場です。しかし今回は、「必死になってノートを取ったのは、社会に出て25年ぶりのことですよ!」と楽しそうに笑って話してくれる方もいました。ノートにだけではなく、記憶にも刻まれたと感じました。

授業のライブ感覚を改めて実感

逆に、先生方も非常に緊張感のある中、参加していただいたと思います。普段は大学生を教えている方々なので、社会人経験豊富なビジネスマネージャーがどのように反応するのかとても心配だったはずです。先生方は参加されるお客様のプロファイルをとても気にしていました。

しかしながら、近畿大学の先生は社会人の方々とのプロジェクトを進めることが多いので、今回の参加者に合わせた資料を十分時間をかけて準備してくださり、非常に洗練された内容で講義を進めました。参加者のバックグラウンドに合わせてライブセッションを行い、参加者の方々がきちんと理解できているか?もっと思考を刺激した方が良いか?と注意深く観察され、反応によっては、当初予定していない内容に進んだりと、授業中ずっと目が離せない状態でした。

「自分探し」の意味もあるリカレント教育

不惑の40代と言われますが、逆に言うと、それだけ様々な迷いを感じる年齢です。私も40歳の頃は、今までの自分はどうだったのだろう?これからどんなことができるだろう?このまま何もできないのか?など、様々なことを感じました。参加者の方々もすでに40代で会社の重責を担われている方が多いですが、やはり先行き不透明でVUCA(※)の時代と言われる現代の方が、良い意味で、今後自分が貢献できるエリアを探している「自分探し」という意味もリカレント教育にはあるような気がしました。参加者の方々の発言の節々に、その雰囲気はうかがえました。

※VUCA…Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)という4つのキーワードの頭文字から取った言葉。グローバル化やテクノロジーの急速な進歩などによってビジネス環境の変化が激しく、予測不能な状態を指す。
 

今回は、学部の教授陣に対し、小学校や中学校のようなクラスルームスタイルで、参加者が横一列に並び、全員で正面の先生に臨むものでした。私もその中に座りましたが、子供の頃の郷愁を覚えました。社会人教育が、島型テーブルだったり、円形のクラスだったりしてリラックスしやすい雰囲気があるのとは、全く対照的です。中学校や高校の時でも、黒板の文字を見ているようで実は、その先の将来の自分を空想していたり、先生の話がBGMになって物思いにふけったりする時間があったと思います。その頃の感覚を追体験し、今回の講義の先に、本当の自分を見出しているような気分になった方は多かったようです。
先生は、6回の講義の最後に、「講義を聞いて、何か少しでも感じるものがあったら、明日まず会社に行って少し何かを始めてください」とおっしゃられました。確かに何かしたい気持ちに私もなりました。今度参加者にお会いしたら、変化を聞いてみたいです。

学校に通う道筋

また、6週間連続で水曜日に実施したのですが、私自身も通ってみて、社会人が全ての日程に遅刻しないで参加するということは、簡単なことではないと思いました。講座が開催された私たちの大阪オフィスは、大阪の繁華街の北新地の中にあるため、参加者の方々は、誘惑の多い街の中を歩いて来られます。

北新地の繁華街

しかし皆さまは、「それがいい!」とおっしゃられます。その華やかな街の中で孤独を感じ、「今日はどんな勉強をするのかな?」「理解できるのかな?」といろいろ考えたりすると、ビジネスのアイデアが出るようです。教室の行き帰りも、ぼんやり何かを考えていることが多かったようです。自分探しのジャーニー、会社の将来性探しのジャーニーなどを模索していたようです。以前、脳のアルファ波を刺激するには、毎日通る道を変えるといいと聞いたことがあります。日常の通勤パターンを変更して、教室に通う道筋もリカレント教育の一部なのかもしれません。

大学三年生のサプライズ登場で長屋状態

今回、学部の先生と実施したことで、もうひとつの発見がありました。リカレント教育は、教育の場に戻ることですが、その教育の場にいる人たちとの触れ合いの意味もあるかと思います。先生は、関西のビジネスプランで優秀な成績を獲得している自分のゼミ生も連れてきて、参加させました。

講座に参加した学生

ビジネスを全く知らない学生の意見が、会社員が知り得ない新しいニーズとなり得ることを知ってもらうためだったようです。確かに若者の新感覚のニーズは理解できたのですが、それ以上にビジネスプランの内容の凄さ、プレゼンテーションの能力に圧倒されました。それを目の当たりにした参加者は、「このような学生達が社会に出てくるのですね!明日から、自分ももっと頑張ります!」と先生より学生に刺激されたようです。

この教室には、20歳の学生、20代後半の私たちの営業、40代から60歳過ぎの管理職もいて、修了式の懇親会では、三世代大家族の長屋のような場となりました。

講座を開催してみていろいろな改善点がありました。やってみたことで、今まで全く気が付かないことなども知ることができました。私たちDell Technologiesの創業者でもあり社長のマイケル・デルは、「健全な冒険心、学ぶことへの愛情、たえまなく変わる業界において変化を支持する態度を持ちつつ、未来に立ち向かっている」と著書に記しています。今回のリカレント教育を通して、このマイケルの言葉により近づきたいと感じました。

 

デル株式会社 上席執行役員 広域営業統括本部長 清水 博

横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス、本社出向)においてセールス&マーケティング業務に携わり、アジア太平洋本部のダイレクターを歴任する。2015年、デルに入社。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手がけた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。現在、従業員100名以上1000名未満までの大企業、中堅企業をターゲットにしたビジネス活動を統括している。自部門がグローバルナンバーワン部門として表彰され、アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。産学連携活動とし、近畿大学と共同のCIO養成講座を主宰する。著書に「ひとり情シス」(東洋経済新報社)。AmazonのIT・情報社会のカテゴリーでベストセラー。早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。

Source: ハフポスト