死体を撮り続けて25年。写真家・釣崎清隆がこだわる理由とは?

釣崎清隆さん=東京・新宿

人間の死体を25年にわたって撮影し続ける写真家の男性がいる。死体の写真がタブー視される中、彼はなぜ、こだわり続けるのか。

交通事故に遭い、内蔵が飛び出て死亡した男性、ストレッチャーに寝かされ、法医学の医師から腹を切り開かれている女性の遺体……。

東京都新宿区にある小さな画廊で12月中旬、世界各地の様々な死体の写真が展示されていた。その数約20点。メキシコやコロンビア、タイなどであった交通事故や殺人事件の現場などで撮影されたという。

自殺の現場として知られる青木ヶ原の樹海や、東日本大震災で撮影された写真もある。

顔を背けたくなるような被写体ばかりだ。「何か聞きたいことがあったら遠慮なく言ってくださいね」。静かな口調で男性が話しかけてきた。

釣崎清隆さん(52)。これらの写真を撮影した本人だ。長身で短髪、革ジャンに迷彩柄のズボン。眼光鋭く、硬派な印象が漂う。

釣崎さんがこだわるテーマは、死体。初めて死体を撮影したのは1994年。タイの首都バンコクで殺害された人だった。

それまではアダルトビデオ(AV)の制作会社にいた。大学在学中からAVの批評記事を雑誌に書いていたことからこの業界に興味を持ち、卒業と同時に入社。自らも監督として2作品を手がけた。

だが、釣崎さんは2年後に退職した。「エロ業界に対するリスペクトの気持ちはあったんですが、僕は本質的にはアーティストだったんですね。表現の自由へのこだわりが強くて、AV作品には性器が映らないようモザイクがかけられるでしょ。この規制に反感を抱いていたんです」

モザイクのない世界で勝負したい――。釣崎さんはアメリカのロサンゼルスでポルノ映画を撮影しようと決意した。

そんなとき、知人の雑誌編集者から「死体の写真を撮ってくれないか」と頼まれた。知人は、新しく創刊する「エログロ(エロチックとグロテスク)」路線の雑誌に掲載しようと複数の写真家に打診していたが、ことごとく断られていた。

予想外の依頼に驚きつつも、「エロいものにグロを感じ、グロいものにエロを感じる」感性を持っていた釣崎さんは「どうせ海外に出るつもりだったから」と引き受けた。

それで向かったのがバンコクだった。死体を撮影するのは初めてだったが、被写体としての魅力を感じ、その後もメキシコ、ブラジル、コロンビアの交通事故や殺人事件、自殺の現場、司法解剖の研究室へと足を運んだ。

「死体写真の魅力は2つ。死体それ自体の力と、現場の力です。死体から人となりがわかります。現場からはもっと色んな事がわかる。自殺であれば、その人がどういう最期を望んだのかとか、あるいは亡くなった人をレスキュー隊や見物人がどう扱っているかなどです。国によって死者に対する尊厳の表し方が違うので、とても興味深い」

例えば、1998年にメキシコの路上で撮影した女性の右手の写真。手首で切断されており、指には金色の指が光っている。

「メキシコで有名な女優さんがスポーツカーを運転していて事故を起こして亡くなったんです。飲酒運転でした。毎日仕事で忙しく、たまの休みにドライブを楽しんでいたようです。地元のカメラマンは体の方を撮影していましたが、私は被写体としては手の方が力があると思いました。当時のメキシコでは、きれいな手をした女性は珍しかったんです。手を見ただけで色々なことが想像できる」

死者への尊厳という意味では、遺体の保存処理(エンバーミング)をするコロンビアの老人が印象的だという。

「1990年代のコロンビアはとても暴力的でした。麻薬をめぐる抗争や内戦などで多くの人が亡くなりました。遺族のため、遺体をきれいにエンバーミングし、化粧までする老人がいました。オロスコという男性で、彼の生き様、死者と向き合う姿勢に感動しました」

釣崎さんはオロスコ氏に長い間密着。「死化粧師オロスコ(OROZCO THE EMBALMER)」という映像作品に仕上げた。

ただ、死体の写真や映像を公表することには反発がある。だが、釣崎さんはこう話す。

「単なる悪趣味を広げようとしているわけではありません。僕はアーティストとしてタブーなき表現の自由を訴えたいのです。『今はそんな時代じゃないからね』で済ませてはいけないと思いますね。表現の自由とは、神聖な権利だと思っています」

人の死についてリアルに考えるきっかけが減っていることにも、釣崎さんは危機感を持っている。

「昔はね、写真週刊誌には自殺した有名人の遺体の写真が載っていましたよね。子ども向けの学習副読本でも、戦争の写真として死体がたくさん掲載されていた。嫌でも視界に入る機会があったんです。ところが今はどうですか。世の中がうるさくなって、メディアも自主規制でしょ。社会全体がホワイトウォッシュ(漂白)されてしまって、誰にでも起きる、日常の延長である死というものを想像しにくくなっています」

「メメント・モリ」という言葉がある。「あなたはいつか死ぬ。それを忘れるな」という意味のラテン語で、芸術作品のモチーフとしてしばしば言われる。だが、釣崎さんはこの言葉が嫌いだったという。

「説教くさくて嫌でした。でもここまで死について考える機会が失われてくると、あえて言わざるを得ないのではないかと思っています」。釣崎さんは険しい表情を浮かべた。

釣崎さんはこのほど、クラウドファンディングで寄付を募り、自身が撮影した死体の写真集「THE DEAD」を出版した。今後も死体をテーマに撮影活動を続けていくという。

釣崎清隆さんの写真集「THE DEAD」

「誰もやったことがない表現であり、誇りとやりがいを感じています」。そう語る釣崎さんの次なる目標は、紛争などで多くの人命が失われたコンゴ民主共和国だ。

「ホワイトウォッシュされた社会でいいのか」

釣崎さんとの主なやり取りは次の通り。

――なぜ死体の写真を取り続けるのですか。

被写体としての死体の魅力にひかれたんです。キャバクラとか行って、そこのおねえちゃんに「あなたが一番見たくない写真は何」って聞くんです。

そうすると「死体の写真」て言われることが多いんですね。みんなが見たくないと言う。でも、逆にそれは、それだけ力強い被写体だと思うんですよ。

死体自体の力もありますし、現場の力もありますよね。まず死体は刻一刻と変化します。そして生前の人となりがわかります。現場には色んな情報があります。

自殺のケースでは、その人はなぜその場所を選んだのかとか。色々考えながらそこにたどり着くんでしょうが、それは自分なりの儀式みたいなものです。

そして最期までこうありたいという思いなんかも想像できます。

現場には死者を取り巻く生きている人たちの存在もあります。レスキュー隊や見物人。彼らが死者に対してどう振る舞っているかとか、あるいは検視官や葬儀屋さんがご遺体をどう扱っているとか。

国によって特徴があって、例えば東日本大震災の現場では、遺体はブルーシートでパーフェクトにラッピングされていました。日本流の死者に対する畏敬の念。感動しました。

インタビューに応じる釣崎さん

――死体の写真はどのようにして撮影するのですか。

メキシコやコロンビアでは、友人関係になった地元の記者から教えてもらったり、警察無線を聞いたりして事故などの現場に駆けつけます。

東南アジアでは民間レスキュー隊から現場を教えてもらいました。

青木ヶ原の樹海では、この場所に詳しい協力者に助けてもらいました。

――死体の写真や映像をメディアなどで公表することはタブー視されています。

当然、活動に対してはバッシングもありますよ。でも、僕は悪趣味を広げようとしているわけではありません。自分なりのアート表現なんです。タブーなき表現の自由として死体をテーマに選んだのです。

表現の自由は神聖な権利だと思っています。だからこの仕事に対し、僕は誇りを持ち、やりがいを感じています。

僕が子どもの頃は、死体の写真にふれる機会があったんです。

写真週刊誌には有名人の自殺現場の写真が載っていましたし、例えば「少年朝日年鑑」といった子ども向けの学習副読本にもたくさん死体の写真がありましたよ。戦争現場のね。そうやってアクシデントとして目に触れることができたわけです。

それが今はどうですか。それすらないでしょう。ネットですら強力な検閲が働いている。

死は誰にもやってくるもの。その意味で死は日常です。

特に子どもに死を考えさせる機会を与えないのは問題だと思いますよ。「もうそういう時代じゃないから」「いかがわしいもの、見てはいけないもの」で済ませていいんですかね。

ホワイトウォッシュ(漂白)された社会でいいんでしょうか。僕は納得できません。

でもね、こういう傾向は日本に限ったことではないんです。かつて僕が写真を撮っていた東南アジアや中南米でも死体の写真を撮って新聞とかに掲載する文化は消えましたね。そうした文化が最も根強かったメキシコですら縮小気味ですよ。

メディア側の自主規制が問題ですね。何か事件が起きるたびに、グロい作品とかがやり玉に挙がって。どんどん表現が狭まっている。

こんな状況に僕はとても危機感を持っています。「メメント・モリ」って言葉があるでしょう。「死を想え」っていう意味なんですが、よくアーティストが作品のモチーフとして使うんですよ。

説教じみているんで、僕の作品は「死」をテーマにしながらも、この表現を使わないようにしていたんですね。あくまで死者と同じ目線から作品を伝えたかったので。

でも、今は「メメント・モリ」って叫ばざるを得ないと思っています。これだけ死体の写真が目に触れない時代になってくるとね。

自身の写真作品の前に立つ釣崎さん


Source: ハフポスト