「禁煙すると太る」。そっちのほうが健康に悪くない?

 最近(平成29年)の調査によると、日本人成人(20歳以上)の「喫煙率」は男性が29.4%、女性が7.2%と、少しずつですが下がっているそうです。仕事場や列車内など、公共の場所での禁煙も一般化しています。タバコの煙大嫌い人間のぼくとしては、うれしい限りです。 しかし、食べること大好き人間のぼくが許せなくて、かつ理解できないのが、レストランや居酒屋さんでの「禁煙化」の動きがにぶいことです。健康増進法が改正され、「原則室内禁煙」が示されましたが、「例外」の店舗が多く、まだまだタバコを吹かしながら食事をとる光景が続きそうです。

 食べ物は胃に、タバコの煙は肺に入りますが、両方とも口の中を通ります。ということは、喫煙は食べ物の選択に影響し、ひいては食べ物を通じてわれわれの健康を左右している可能性が考えられます。

 タバコを「吸う人」の食習慣は「吸わない人」と異なるのか、その結果、健康状態はどうなっているのか、「禁煙」したら健康状態はどう変わるかについて、エビデンスを見てみましょう。

喫煙と肥満度

図1は、「喫煙習慣と肥満度」の関係を調べた結果です(※出典1・2)。

 これを見ると、タバコを吸っている人は比較的やせていて、タバコをやめると、吸ったことのない人とほぼ同じ肥満度になっていくことがわかります。ならば、タバコをやめると「メタボ」が進んでしまい、むしろ健康によくないかもしれません。

 そこで、タバコを吸っている人に禁煙をすすめ、禁煙できた人たちとできなかった人たちのその後の健康状態を、4年間にわたって観察した研究を見てみましょう(※出典3)。

 この研究では、禁煙によって体重が2kgくらい増えたそうです。そしてその結果、BMI・収縮期血圧・血清総コレステロールが大きく上昇しています。HDLコレステロールが上昇したのはありがたいのですが、総コレステロールがそれ以上に上昇しているのが気になります。高血圧も高コレステロール血症も、循環器疾患、特に「心筋梗塞」の原因になります。

 「やっぱりタバコをやめて太るのは、健康によくないんだ!」。いやいや、早とちりしないでください。

 研究によると、禁煙によって期待できる「心筋梗塞の予防効果」のほうが非常に大きいために、この程度の血圧と血清コレステロールの上昇による危険の増加は帳消しになるのだそうです。そして実際には、心筋梗塞の危険を2割以上も下げてくれるのだそうです。

 というわけで、体重増加に伴う問題が多少あるとしても、「タバコをやめるメリット」は、それを補って余りあるほど大きなものというわけです。

喫煙と食習慣

 タバコを吸う人はなぜ健康ではないのか。直接の煙の害以外にも証拠がありました。図3は、食品群の摂取量を、タバコを吸う人・禁煙中・吸わない人に分けて比較した研究です(出典1)。対象者は図1と同じ、山形県に住む成人です。喫煙者が多かった男性について、摂取量の差があったものを図にしました。

 お菓子と飲み物は別にして、果物、緑黄色野菜、大豆製品、牛乳・乳製品など、できるだけ食べてもらいたい食品の摂取量が少ないことがわかります。一方、お肉や魚、主食類には大きな違いはありませんでした。

 つまり、タバコを吸う人は副菜や果物、牛乳・乳製品が苦手のようです。

 タバコを吸うと副菜嫌いになるのか、副菜が苦手な人がタバコに手を出しやすいのか、それははっきりしませんが、果物や緑黄色野菜がガンの予防になること、大豆にもその可能性があることなどを考えあわせると、喫煙は、タバコに含まれる発ガン物質が悪いだけでなく、それに加えて、食習慣の違いも介して、ガンにかかりやすい体質をつくっているおそれがあります。

 図3にあげた食品群の多くは、ほかの「生活習慣病」の予防にもおおむね好ましいものです。喫煙はガンだけでなく、「生活習慣病全体」にもダブルで影響を与えてしまうものだといえそうです。

◎「喫煙」で体重を減らせても、健康にはつながらない

◎「禁煙」で体重が増えるのは、健康的な食べ方が戻ってきた証拠かもしれない

 この2つを、強調しておきたいと思います。

【結論】禁煙すると太るのは事実ですが…

タバコを吸う人は吸わない人に比べてやせていて、タバコを吸っている人がタバコをやめると太ります。

 でも、喫煙による体重減少は健康にはつながりません。そのうえ、タバコを吸う人は副菜や果物、牛乳・乳製品が苦手なようです。つまり、喫煙は、タバコに含まれる「発ガン物質」が悪いだけでなく、それに加えて、食習慣の違いも介して、「生活習慣病」にかかりやすい体質をつくっているのです。

出典 

今回ご紹介した話題は、『栄養と料理』2011年12月号で掲載した「佐々木敏がズバリ読む栄養データ 第9回禁煙すると太るのか?』を改変したものです。以下の文献(根拠)に基づいています。

※1 矢口(田中)友理,他. 地域住民における喫煙習慣と栄養素ならびに食品群摂取量との関連. 日本栄養・食糧学会誌 2011; 64:159-67.

※2 Williamson DF, et al. Smoking cessation and severity of weight gain in a national cohort. N Engl J Med 1991; 324:739-45.

※3 Tamura U, et al. Changes in weight, cardiovascular risk factors and estimated risk of coronary heart disease following smoking cessation in Japanese male workers: HIPOP-OHP study. J Atheroscler Thromb 2010; 17:12-20.

佐々木敏(ささき・さとし)医学博士。国立がんセンター研究所支所、国立健康・栄養研究所などを経て2007年より現職。女子栄養大学客員教授。「科学的根拠に基づく栄養学」を提唱し、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」策定において中心的役割を担う。著書は『わかりやすいEBNと栄養疫学』、『佐々木敏の栄養データはこう読む!』『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ』ほか。月刊誌『栄養と料理』で「佐々木敏がズバリ読む栄養データ」連載中。

Source: ハフポスト