サウジ記者殺害:「ファクトチェック」装い虚偽情報拡散

サウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏がトルコのサウジ総領事館で殺害された事件をめぐり、様々な虚偽情報がネットに拡散している。

カショギ氏と婚約者の写真が「偽造」だとする「ファクトチェック」を装った虚偽情報を拡散。さらに、それを元米大統領補佐官のアカウントがツイートしている事例もある。

また、偽のニュースサイトに掲載された”記事”をロイター通信が報じ、撤回する一幕もあった。

情報戦の激化が、いよいよ事実を見えにくくしている。

●「ファクトチェック」の中身

ヘラルド・リポート」というサイトが10月17日、「偽婚約者の見分け方:カショギ事件」と題した投稿を公開した。

この中で、カショギ氏と婚約者ハティジェ・ジェンギズ氏が写っている写真を拡大してみると不自然な点があり、「捏造だ」と主張。さらにジェンギズ氏が婚約者だとの報道も疑わしい点があるとして、「ジェンギズ氏はプロパガンダのツールだ」などとしている。

筆者は、「ミドルイースト・ガーディアンズ編集長」というマジェド・アレイサ氏。

当初はこの「ミドルイースト・ガーディアンズ」名のツイッターアカウントで発信していたようだが、「我々の徹底した調査のために、ツイッターからアカウント停止をされた」としている。

ウェブ解析サービス「バズスモー」によると、この投稿には5000件を超すエンゲージメントがあるが、その大半は一つのツイートが集めている。

「へラルド・リポート」の記事公開から1時間ほどで、それをツイートしたのが、ジョージ・W・ブッシュ政権で国土安全保障担当の大統領補佐官を務めたフランシス・タウンゼント氏のツイッターアカウントだった。

タウンゼント氏のツイートは、3800件以上リツイートされている。

●「ファクトチェック」のファクトチェック

バズフィードのイシュマエル・ダロ氏が「ミドルイースト・ガーディアンズ」の主張を検証している。

ダロ氏は画像検証の専門家の見解を紹介。「ミドルイースト・ガーディアンズ」が写真に不自然な点がある、としているのは、7000%と極端に拡大した状態で見ているからだと指摘し、「偽造の証拠ではない」としている。

ダロ氏は「ミドルイースト・ガーディアンズ編集長」のアレイサ氏にも連絡をとり、説明を求めている。

これに対し、「偽造」の主張から「広い議論を期待しているだけだ」と後退していった、という。

バズフィードの記事が掲載されたのが10月12日。その5日後に「ツイッターアカウントは停止された」として、今度は「ヘラルド・リポート」に発表の場を移し、なお虚偽情報を発信し続けているようだ。

●ロイター通信の記事撤回

ロイターは17日、「サウジの在イスタンブール領事解任、捜査対象に:報道」として、サウジのネットニュースを引用する形で配信。だが後に、「そのような記事は掲載されていなかった」として撤回した

実在のサイトを模した偽サイトの記事を引用してしまったようだ。

フィイナンシャル・タイムズのアフメド・アル・オムラン氏が、ツイッターで、偽サイトの画像とともに紹介している。

ロイターは撤回した記事で、「SABQが報じた公式声明によると」と報じていた。

「SABQ」はサウジの実在するニュースサイト。だが、ロイターが参照したのは「SABQ」を模した偽サイトだったようだ。

ロイターは記事撤回から2週間後の11月1日、「フェイクニュース・ネットワークとボット:カショギ氏殺害事件をめぐるネット情報戦」と題した記事を公開した。

記事の中で、ニュースサイトの体裁をとる53もの偽サイトのネットワークが存在し、カショギ氏殺害事件をめぐる虚偽情報を拡散していると指摘する。

そして、「SABQ」がロイターなどのメディアが事件をサウジ政府攻撃に使っていると批判していることや、「SABQ」を騙ったフェイクニュースが流されていることなどを明らかにしている。

●「ファクトチェック」の偽サイト、ほかにも

メディアサイト「ポインター」が一連の動きをまとめている。

今回の事件は、関係国による情報戦の側面も強く、事件現場となったサウジ領事館の外で待っていたカショギ氏の婚約者について、「偽物」とする虚偽情報がネットで多数出回っている、と「ポインター」は紹介している。

筆者はダニエル・ファンケ氏とアレクシオス・マンザリス氏。「ポインター」はファクトチェックの国際連携機関「IFCN」の事務局、マンザリス氏はその事務局長を務めている。

さらにこの中で、「ファクトチェック」の偽サイトの動きはこれまでにもあった、と指摘。

その実例として、「ファクトチェック」をパロディー化したような「ノー・フェイクニュース・オンライン」や、実在するスウェーデンのファクトチェックサイト「ファクティスト」の偽サイトなどをあげている。

特に、選挙などで候補者に対する批判への反論の形で「ファクトチェック」のワーディングを使うケースも見られ、米国のほか、クロアチア、イタリア、イランなどでも、同様の動きがあるという。

「フェイクニュース」は、トランプ大統領がメディア攻撃に使うことで、言葉の意味が混乱していった。

「ファクトチェック」もまた、同様の危険性を抱えているようだ。

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■新刊『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』(朝日新書)

(2018年11月4日「新聞紙学的」より転載)

Source: ハフポスト